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東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)8号 判決

原告の主張する審決取消事由の存否について検討する。

1 延伸率について

(一) 原告は、本願発明における「少なくとも二〇倍以上の延伸率」は、当業者が必要に応じて適宜容易に選定できるものではないと主張する。

右の「二〇倍」なる数値が延伸率の最下限値を意味するものであることは、本願発明の要旨に照らし明らかである。

他方、成立に争いのない甲第四号証の三によれば、第二引用例の第一六頁第九図にはアルミニウム線圧延時のロールカリバーが記載されており、そこでは、圧延当初の数回は類似した形状に圧延するが、それ以後においては楕円形断面のロールカリバーと菱形断面のロールカリバーとによる交互変形圧延方式が採用されていることが認められる。

ところで、右第九図上列に示されているロールカリバーについて見ると、これが鋳造組織を消滅させるために七〇倍の延伸率になるまで加工したことを示していること、また、圧延当初のアルミニウム線の断面積と四回目の圧延におけるロールカリバーの断面積とを実測して比較すると四回目の圧延における延伸率が約三倍となつていること、はいずれも原告の自認するところである。

そうすれば、前示のように交互変形圧延方式が採用されている五回目以後については、四回目の圧延後のアルミニウム線を基準にすれば、延伸率は計算上二三・三倍(70÷3=23.3)となり、これに断面積の実測における誤差を考慮に入れるならば、その延伸率は二〇倍前後であると認められる。

一方、圧延当初から四回目までの圧延は、菱形断面の形状類似のロールカリバーによつて行なわれるものであつて、この間アルミニウムの鋳造組織の消滅がほとんど行なわれないことは原告の自認するところであるから、これによれば、実質的にアルミニウムの鋳造組織の消滅が行なわれるのは五回目以後の交互変形圧延方式による圧延段階であることが明らかである。

そうすれば、右第九図における上列のロールカリバーは、アルミニウムの鋳造組織の消滅が行なわれる段階における延伸率が約二〇倍であることを示唆しているということができる。

ところで、圧延技術において、延伸率を上げれば金属鋳造物の鋳造組織が破壊され、特性が向上することは当裁判所に顕著な事項であるが、圧延を実施するに際しては、鋳造組織を消滅させるために必要最小限の延伸率で圧延することが加工効率の点から常に配慮さるべきことは当然のことであるから、前示のように、第二引用例の第一六頁第九図に、鋳造組織の消滅が行なわれる段階における延伸率について約二〇倍の数値のものが示唆されている以上、本願発明において延伸率の最下限として二〇倍という値を選定することは、当業者が容易になしうることといわなければならない。

原告は、本願発明の圧延方法は二〇倍の延伸率で目的を達しているものに限定されると主張するけれども、成立に争いのない甲第二号証によれば、本願発明の明細書の発明の詳細な説明の項には、その点につき、「従来技術では三〇倍の延伸率で延伸しても、鋳造金属が延伸軸に垂直な複数軸にそつて実質的移動をしない、すなわち鋳造粒子構造が残留する」(第六欄第二四行~第四〇行)、「本願発明の方法は鋳造機材を少なくとも二〇倍の延伸率で延伸する必要がある」(第六欄第四〇行~第八欄第六行)旨の記載があるのみで、本願発明の圧延方法が二〇倍の延伸率で目的を達しているもののみに限られる旨の記載は存しないことが認められる。そして、特許請求の範囲の項においても、圧延に際しての金属の移動量は特に限定を付されていないのであるから、本願発明の圧延方法において、圧延に際しての金属の移動量が常に一定の値であるということにはならないのである。

そうすれば、本願発明の圧延方法は、二〇倍の延伸率で目的を達しているもののみに限定されると解することはできないのであつて、延伸率が第二引用例に記載されているような七〇倍、一〇〇倍のものも本願発明にいう「少なくとも二〇倍以上の延伸率」に包含されるものと解すべきである。したがつて、原告の右主張は採用できない。

(二) 原告は、第二引用例の第一六頁第九図に示されているのは再加熱式圧延法によつて行なわれたものであるから、連続鋳造圧延法による本願発明の延伸率については参考にならないものであると主張する。

しかしながら、連続鋳造圧延法と再加熱圧延法による場合とでは、圧延前の鋳造物の組織に多少の差異がありうるとしても、その鋳造物が鋳造組織を有する点においては両者に差異はないと考えられ、圧延によつてその鋳造組織が消滅することになるのであるから、圧延に際しての延伸率について両者の場合を対比することは合理的、かつ、有意義である。

原告の右主張は理由がない。

2 金属の移動量について

原告は、本願発明と第二引用例第一六頁第九図のものとでは延伸に際しての金属の移動量が異なるから、その技術は本願発明の参考にならないと主張する。

しかしながら、前記1の(一)の項に既述したように、第二引用例の右第九図の上列に記載のものにおいては、鋳造組織の消滅が行なわれる五回目以後の圧延における延伸率が約二〇倍であるから、この数値は本願発明における延伸率二〇倍の数値と差のないものである。

そうすれば、延伸率の点からみると、右第九図上列のものにおいて鋳造組織の消滅が行なわれる五回目以後の圧延における金属の移動量と本願発明の圧延における金属の移動量との間に格別大きな差異があるとは認められない。

なお、仮に、原告主張のように、円形断面のロールカリバーと楕円形断面のロールカリバーとによる交互変形圧延方式における金属の移動量の方が前記第九図の菱形断面のロールカリバーと楕円形断面のロールカリバーとによる交互変形圧延方式における金属の移動量より大きいとしても、当事者間に争いのない本願発明の要旨(請求の原因二、項)によれば、ロールカリバーの形状及び金属の移動量について特段の限定はないのであるから、このことを根拠とする原告の主張は理由がない。

3 圧延方法の相違について

原告は、本願発明の技術は再加熱することなく凝固温度にある間に圧延する連続鋳造圧延方式におけるものであるのに対し、第二引用例に記載のものは再加熱圧延方式における技術であつて、両者は基本的に異なるものであるから、再加熱圧延法で使用されている技術を連続鋳造圧延法に転用することは容易であるという審決の判断は誤りであり、しかも、審決はその根拠も示していないと主張する。

しかしながら、前掲甲第四号証の三(第一七頁左欄下から第九行目~右欄第八行)によれば、鋳造金属を凝固したままの温度にある間に直ちに熱間成形するいわゆる連続鋳造圧延法は、本願発明の特許出願前に既に周知になつていた技術であることが認められる。そして、金属の加工技術において、圧延が鋳造組織の消滅を目的とするものであることは当裁判所に顕著な事項であるから、鋳造金属について鋳造組織を消滅させる目的で鋳造後凝固したままの温度にある間に直接圧延処理を行なう連続鋳造圧延法を採用するか、それとも、一旦冷却した後再加熱して圧延処理する再加熱圧延法を採用するかは、当業者が必要に応じて適宜選定できる事項というべきものである。

そうすれば、第二引用例に再加熱圧延法ではあるがアルミニウムの圧延技術が記載されている以上、その技術を連続鋳造圧延法に転用することは当業者にとつて容易になしうることというべく、審決が「転用することは極く当り前のことであつて、この点に格別の発明的工夫は認められない。」としているのはこのことを意味していると解されるので、原告の主張は理由がない。

よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

連続鋳造機により鋳造された金属がその凝固したままの温度にある間に直ちに熱間成形を開始し、該金属に熱間変形を所要の回数加えることによつて該金属の延伸軸に沿つて少なくとも二〇倍以上の延伸率を与え、かつ、該各回の熱間変形は該金属の延伸軸の方向に直交する断面にある鋳造金属の一部が変形前の断面形状の時のそれ自身の占める位置に対し前記直交する断面の平面内にある複数軸に沿つて内方のみならず外方に向つて大きく移動せしめられることを特徴としたアルミニウム系熱間成形品の製作方法。

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